CVIC通信

CVICより皆様へのメッセージを届けます

"Focus on what we can control"「出来る事に集中する」

 仕事をしていると日々様々な問題が発生します。全ての問題を解決しようとすると、問題の大きさと複雑さに押し潰されそうになる事もあります。我々はスーパーマンではありません。全ての問題を解決する事は不可能です。その時に、我々の力ではどうしようもない事が存在する事を認識するのは重要と思います。そうする事で、自分たちのすべき事が見えてくる事があります。

CVICのStaffの皆さんは、CVICの事を全ての先生方、患者さんを始めとして、CVICに関わる全ての人に好きになって欲しいと願っていると思います。素晴らしい心がけですが、人の気持ちも我々がControlできない事の一つです。我々にできる事は、CVICを信頼して頂いている人の期待に応えるように、日々全力を尽くす事ではないかと思っています。残念ながら、我々の時間と体力、気力には限界があります。限界がある事を認識して有効活用する事も重要と思います。CVICが心臓に特化している理由の一つもそこにあります。

自分たちの出来る事に全力を尽くして行きましょう。

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“Diabetes and Cardiovascular Disease” 「糖尿病と心血管病」

糖尿病が、心筋梗塞脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(足の血管病)などの心血管病の重要な危険因子の一つであることは古くから知られています。糖尿病を上手くコントロールすることで、心血管イベントの危険性を42%、心筋梗塞脳梗塞などによる死亡を57%減少させることが報告されています。

糖尿病患者は、生活習慣の欧米化により日本でも増加しており、20歳以上の男性の6人に1人が糖尿病という厚生労働省の統計があります(図参照)。健診で糖尿病と言われても放置している人が約40%という統計もあります。糖尿病は、生活水準の高い先進国だけの病気ではなく、世界中で増加しています。世界の統計では、7秒に1人が糖尿病が原因で死亡しており、糖尿病患者の2人に1人は糖尿病であることに気が付いていないというデータがあります(図参照)。

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一度心筋梗塞を発症した患者は、2回目の心筋梗塞を発症しやすいことが知られています。糖尿病があるだけで、1回心筋梗塞を発症した患者と同程度の心筋梗塞発症の危険性があるというデータがあります(図参照)。糖尿病に如何に対処するのかは、今後も循環器の世界で益々大きな問題となると思われます。

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糖尿病患者並びにその予備軍の増加に伴い、糖尿病の治療薬も進歩しています。様々な機序の糖尿病治療薬が登場して、糖尿病関連の学会や研究会は活気が出ています。そのような研究会の一つである「新宿区医師会糖尿病研究会」で講演をさせて頂く機会を頂きました。

https://www.facebook.com/events/695880547207373/

糖尿病患者の動脈硬化が進行して、心筋梗塞脳梗塞になる前に画像診断で発見できることのメリットは大きいと思います。また、どんな素晴らしい治療薬も、患者が薬剤を継続して内服し(薬剤コンプライアンスの向上)、非薬物療法としての食事や運動を継続して実施しないことには治療効果を上げることは出来ません。いわゆる患者の治療へのMotivationの向上が重要になります。それにも、心臓画像診断は大いに役立つのではないかと考えています。このようなCVICの思いをお伝えできればと思います。

"Silicon Valley" 「シリコンバレー」

Stanford大学は工学部(Electrical Engineering, 略してEEをダブル “E” と呼んだりします。)が非常に有名です。Silicon valleyの人材輩出工場としての役目もあります。古くは、Silicon valleyの父と呼ばれるHP(ヒューレットパッカード)を築いたHewlettとPackardは、工学部の大学院生でした。最近では、Googleの創業者の二人がStanford大学の工学部出身で有名です。私にも幸いなことに、このような世界トップレベルのEngineerとはどのような人間なのかを垣間見る機会がありました。

私がStanford大学に初めて留学した15年前ですが、工学部の大学院生や教授の集まるカンファレンスで自分のMRI研究データを発表する機会がありました。慣れない英語での、しかもあの有名なStanford大学工学部の大学院生たちの前でのプレゼンテーションでしたので、かなり緊張しました。無事に発表を終えて、自分のDataをしっかりと示せれたと思ったのですが(Powerpointですから内容は理解されたと思います)、どうも皆さんの反応がいまいちです。どうしてか分からずに、後ほどBossに聞きました。

Boss曰く、

「お前のプレゼンは非常に良かったけれども、ひとつ大事なことを忘れている。彼らは、お前の成果を聞きたいのではなく、お前が何を目指しているのか、それを達成できないのは何に困っているからなのかを知りたいのだよ。」

彼らは、人が出来ないことを技術で達成したいと思っている集団でした。「難しすぎて誰もやったことがない。」ということが一番の動機になる集団でした。そのような人間が集まるSilicon Valleyという場所に、改めて凄さを感じました。

我々も心臓画像診断に関しては、同じ集団を目指して行きたいと思います。心臓の画像診断は難しくて、時間がかかるのであまり人がやらない。だからこそ、我々はそれに特化して何とか取り組んで行きたいと思います。それが患者さんのためになることを信じて。

 

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“Communication” 「意思疎通」

Communicationは非常に重要と言われますが、実際にはどうすればよいのか?これはなかなか難しい問題です。人間同士のことですから、ちょっとしたことで行き違いやすれ違いが生じます。日本人は言葉に出さないでも、「あうん」の呼吸でということが多いですが、海外では「あうん」が通じることは非常に稀です。やはり、しっかりと言葉に出して伝えることが重要になります。

個人的に心がけているのは、次の3つです。

  • 人を褒めるときのCommunication
  • 人を励ます時のCommunication
  • 感謝の思いを伝えるCommunication

何気ない一言で、人を傷つけてしまうこともあれば、元気づけられることもあります。

私の若かりし頃(今でも若いつもり?ですが)の一例を紹介します。ドクターの中には、看護師さんに教えられた、助けられたという人は非常に多いと思います。もちろん、私もその一人です。現在は制度が少し変わっていますが、ドクターの研修医3年間はとにかく勉強の連続です。研修医2年目で忙しい大阪の市中病院に配属された時の経験は忘れられません。病棟で循環器部長の受け持ち患者が急変し、当直の循環器の先輩医師が対応に当たり、私が循環器部長への連絡を依頼されました。自分なりに部長に報告したつもりでしたが、電話口でいわれたのは、

「お前じゃ分からないから、M看護師に替わってくれ。」

すぐに電話を替わると、的確にバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸数など)を含む患者の病態を報告し、循環器部長から指示を受けて、先輩の循環器医師と相談して患者に対処していました。私は、そのスピードについていけなくて、そばで見ているに近い状態でした。患者が落ち着いた後で、非常にショックを受けていた私に、M看護師さんが声をかけてくれました。

「先生なら、そのうちに必ず私なんかよりももっと皆に信頼されるドクターになりますよ。たくさんの研修医を見てきましたが、先生は必ず優秀なドクターになると思いますよ。」

今から考えると、リップサービスもたくさん入った励ましの言葉だったと思います。しかし、若かった私は、その言葉に救われ、モチベーションを持ち直して仕事に打ち込んだことは確かです。

褒める、励ます、感謝する、の3つを心がける人が増えれば、組織のCommunicationも良くなると思います。もちろん、時には厳しく注意することも必要でしょうが、しかし、上記の3つのCommunicationがしっかりとしていれば、大きなズレにも繋がらないのかもしれません。ついつい億劫になりがちですが、私も常に心がけて行きたいと思います。

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“The learning moments” 「学びの瞬間」

どのような職業にも共通しますが、仕事は学びの瞬間の連続であると思います。医師としての仕事の中で、私が重要視していた学びの瞬間は、「患者急変時」です。患者急変時に、先輩の先生方が何を一番重要視するのか?最初に何を質問するのか?最初にどう行動するのか?この瞬間に全ての神経を集中していたように思います。実は、これは全ての仕事に共通ではないでしょうか?うまくいっているときには、なぜうまくいっているのか分からないときもあります。しかし、Troubleが起こったとき、困難な場面に直面した時にこそ、真価が問われると思います。Troubleや困難な場面に先輩がどう対処するのか、それが一番の学びの瞬間ではないかと思います。

大リーグで活躍する日本人選手の代表であるイチロー選手が、苦手と思われる名投手ロジャークレメンスについて質問されたときの言葉です。「ロジャークレメンス投手は苦手ですか?」という問いに、彼はこう答えました。

「彼は僕の才能を引き出してくれる選手です。」

素晴らしいCommentであり、気持ちの持ち方と思います。私も、困難な瞬間を成長の場と捉える心の余裕が身につけばと、常々願っています。

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“Miracle” 「奇跡」

不可能と言われることを実現することは、非常にExcitingであり、やりがいのある仕事と思います。

19世紀のイギリス経済学者であるWalter Bagehot (ウォルター・バジョット)も、下記のような名言を残しています。

「人生における最大の喜びは、お前に出来るわけがないと言われたことをやってのけることだ。」

“The greatest pleasure in life is doing what people say you cannot do.”

不可能を可能にした時に、人々は奇跡 (Miracle) と呼びます。アメリカでMiracleというと多くの人が想像する出来事があります。「氷上の奇跡」 “Miracle on ice” と呼ばれる、1980年の冬季オリンピックでのアメリカのアイスホッケー代表チームが世界最強を誇るソ連代表チームに勝った出来事です。実は、この出来事はDisneyから映画になっています。1回観た時から、私の大好きな映画の一つとなり、これまでに勇気が欲しいときに一人で、時には家族と一緒に、既に20回以上繰り返し見ています。

4大会連続で金メダルを獲得して、USプロホッケー(NHL)のオールスターチームにも大勝するような無敵のソ連代表チームに挑む、大学生で構成されるUS代表チームの話です。誰もが無理と思うような偉業に挑む大学生の若者たちの情熱、US代表の重み、強敵に対して真っ向から恐れずに勝負する若さなど見所満載です。いくつかのフレーズを勝手に日本語に訳すと、

“You are born to be a hockey player.”「君たちはアイスホッケー選手になるために生まれてきた。」

“Great moments are born from great opportunities.”「素晴らしい瞬間は素晴らしい機会から生まれる。」

“This is your time.”「今日は君たちの舞台である。」

などなど、たくさん素晴らしい激励の言葉が出てきます。珍しく根性ものの洋画といった感じでしょうか?

英語での劇場予告編はこちらです。

http://jp.youtube.com/watch?v=wZBb_8WQKUA&feature=related

私がiPhoneに入れてよく聞いている試合前のSpeechはこちらです。

https://www.youtube.com/watch?v=tdmyoMe4iHM

 CVICは日本初の心臓特化型Imaging Centerです。最初に事業計画を立てた際には、多くの人から貴重なアドバイスを受けました。

「心臓特化なんて聞いたことが無いし、とても成功するとは思えない。」

皆さん親身になって考えて頂いたのは間違いないと思います。しかし、必ず患者の役に立つものであるという確信と必ず成功させるという意気込みでStartしました。成功というには、まだまだ道のりも遠いですが、Miracleの映画の様に最後にハッピーエンドになればと願っています。

日本語字幕のDVDをClinicに2本寄贈しました。興味のあるStaffの方は、ご自由に借りて帰って、ご家族、友人と一緒に是非ともご覧下さい。

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“Conflict” 「対立」

複数の人間が一緒に仕事をしていると、意見の対立は必ず起こります。複数の人間が一緒に生活する家族の中でも起こりますので、実は避けがたいことかもしれません。意見の対立をうまく処理することで、仕事の効率を上げ、個人のストレスコントロールもうまくやっていけるではないかと思います。

Stanford大学時代に大学の主催するセミナーで興味深い「意見対立の解決法」の話を聞きました。

2人の人間が1個のリンゴをめぐって対立している。両者とも、どうしても1個分のリンゴが必要で、半分に分割して分け合うことは出来ないということでもめている。一見、解決は不可能と思われる状況である。しかし、どうして1個のリンゴが必要なのかという理由を聞くと、一人は1個分のリンゴの皮が必要で、もう一人は1個分のリンゴの実が欲しかったという結論でした。

一見、不可能に見える意見の対立でも、どこかに解決法を見出せることがあります。相手が何を望んでいるのかを把握することは重要であるという教訓です。

また、アメリカでの交渉ごとの原則に、以下のような言葉を教えられました。

“Hard on problems, soft on people” (問題には厳しく、人には優しく)

問題に関しての意見の対立が続くと、相手の人にまで厳しくなってしまうことがあります。重要なのは問題を解決することです。「何が問題となっているのか?」「解決するにはどうすれば良いのか?」を互いに協力して話し合うことで、問題も解決できると思います。

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